三井不動産
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ケアデザインプラザ

  認知症ケアの今後 キーワードは「地域再生」
〜認知症ケア第一人者 川崎幸クリニック杉山医師に聞く〜
2007年12月7日





 
今や、施設入居者の8割を占める認知症。“認知症介護の切り札”とされ、施設数を急増させてきたグループホームが、今後も認知症高齢者を支え続けていくことになるのか。それとも、団塊世代が文字通り塊となって高齢社会を形成する2015年以降に向け、新たなケアのシナリオが準備されつつあるのか? 27年間にわたり、医療と介護の現場の厳しい「現実」と格闘するかたわら、厚生労働省ほか高齢者介護の主要な研究会に数多く携わり、問題解決のための道を探り、「制度化」へと導き続けた杉山孝博医師に、認知症ケアの現状と今後のあり方について聞いた。
川崎幸クリニック
杉山孝博医師
 




  川崎市の川崎幸クリニックを拠点に訪問診療を始めてから28年目、「社団法人認知症の人と家族の会」(以下「家族の会」)にかかわってから27年目になる。クリニック内に開設する訪問看護室のほか、救急医療機関である川崎幸病院、川崎市幸区内にある3つの訪問看護ステーションなどと連携して24時間対応できる体制をつくり、年間40〜50名を在宅で看取っている。癌末期や呼吸不全などの疾患もあるが、圧倒的に多いのが寝たきりや認知症高齢者だ。

人生の最後をどこでどのような形で迎えたいかという問いかけに、多くの人が「自宅で、家族に囲まれながら、苦しまないで穏やかな死を迎えたい」と答える。しかし、介護をする家族にかかる負担や、介護される側の家族への遠慮、十分な医療を受けられないなどの事情から、その希望がかなえられる可能性はきわめて低い。少々古いデータだが、1993年の調査によれば、全死亡者のうち、自宅で亡くなったのはわずか23%(20万人)にすぎない。77%(68万人)が病院などの施設で亡くなっている。

ところが、岡本裕三元神戸市看護大学教授によると、将来的には病院で死を迎えることのほうがむしろ難しくなりそうだという。1980年まで70万人前後だった年間死亡者数は、99年には100万人になり、2012年には140万人を越えると予測されている。30年間で倍増しているのである。現在と同じ割合で増え続けるなら、病院は終末期の患者であふれることになりかねない。現在、病院はどこも、平均在院日数の短縮化が至上命題である。それほど医療的なニーズを必要としない高齢者に、長期間にわたってベッドを提供し続けるわけにはいかなくなってきたのだ。

したがって、今後は、在宅あるいは施設におけるターミナルケアが当たり前になっていくだろう。解決すべき課題は数多くあるが、まずは、医療者が在宅や施設でのターミナルケアに理解を持ち、そのためのシステムを整え、そして何より、社会全体がターミナルケアに関心を持つようになれば、自宅で終末期を迎えたいという希望をかなえることは決して難しいことではないと私は考えている。





  ただ、重要な問題がひとつ残る。それは、認知症高齢者のケアと看取りをどうするかという問題である。

私が「家族の会」とかかわりを持ち始めた27年前、特別養護老人ホーム(以下特養)は「養老院」の暗いイメージがあるからと、たとえ自分が倒れても親を養老院には入れないという介護者が大多数を占めていた。特養側も、「夜間に徘徊する」「騒ぐ」などを理由に認知症高齢者の入所を断ってきた。認知症に対する社会の知識も理解も低く、認知症高齢者はまだある種、特別な存在だったのだ。

しかし、2003年6月に発表された高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」によれば、要介護認定者の2人に1人(居宅にいる要介護認定者の3人に1人、施設にいる要介護認定者の8割)に認知症の症状がある。20年前、約70万人だった認知症高齢者数は2005年には169万人に達し、さらに今後約10年間で約100万人増加するといわれている。つまり、今後は倍のスピードで認知症高齢者が増えるのである。団塊世代の高齢化、さらには若年性認知症の急増が、これに拍車をかけることになるだろう。

寝たきりや手足の麻痺など身体上の問題を抱える高齢者の場合は、医療や看護・介護の体制さえ整えば、高齢者世帯でも、たとえ一人暮らしでも、在宅によるケアと看取りは可能だ。しかし、認知症高齢者となるとそうはいかない。24時間見守りの必要な認知症介護の困難さは、おそらくそれを体験した家族でなければわからないだろう。しかし、その体験者が特別な存在ではなくなってきている。今や、認知症介護の問題は、日本の社会において普遍的な問題となりつつある。





  認知症高齢者対応のグループホーム(以下、グループホーム)は、小規模な生活の場(5〜9名の利用者)で、専門スタッフとともに、家庭的で落ち着いた雰囲気のなかで生活を送ることにより認知症の進行を遅らせ、その人らしい生き方を可能とするケアの形態である。

1990年当時、日本は介護の基盤が不十分で、「老人ホームやデイサービス、ホームヘルプサービスをどう増やすか」が老人介護の主題で、1対1に近いケアを実現するイメージはなかった。グループホームの費用はすべて設立者の自費、もしくは自治体の費用負担で入居費用には何の補填もなかったため、1994年時点でのモデル施設は全国でわずか8施設。厚生省(当時)の委託で私も委員に加わった全国社会福祉協議会の調査研究が行われていた1996年ですら17施設だった。

しかし、この調査の結果を受けて、厚生省は「痴呆対応型共同生活援助事業」として設立に800万円から1,200万円の補助金を出すことを発表した。これを機にグループホームの設立が全国に一斉に広まる。2000年3月末には全国で266施設が稼動し、介護保険で認められた2002年3月には1,678施設、2006年は6,448施設、2007年には8,792施設にまで伸び、なんと7年間で33倍に激増した(ただし、約170万人の認知症高齢者のうちグループホームで生活する人は10万人と約6%にすぎない。介護保険で認められ急速に増加したとはいえ、まだまだ少ないと私は思っている)。

しかし、グループホームは、小規模であるためケアの内容や運営に関して閉鎖性が強く、また歴史が浅く地域の人々や関係機関などの基本的な理解が不十分であることなどから、独善的な運営に陥りやすい。「認知症ケアの切り札」とも呼ばれたグループホームだったが、認知症介護のイメージを明確に定めて設立した事業者もいれば、補助金が下りるからアパートより利益が出ると安易に設立した事業者もいて、玉石混淆の状態であった。

そこで1999年に行われたグループホームの質の評価のための調査研究を受けて、私が委員長を引き受けた2000年と2001年の2年間の調査研究委員会の結果から、(1)管理者等の研修、(2)少なくとも年に1回の自己評価と外部評価の実施とその結果の公開、(3)情報公開、が義務づけられるようになった。

このように規模、質ともに制度整備が進んだグループホームだが、より利用者のニーズに即した介護施設をめざして下記のような方針転換が行われた。同時に、それはグループホームにかぎらず、今後の高齢者住宅・施設全般に投げかけられている課題でもある。





  (1) 地域密着型へ
グループホーム設立の激増を受け、2006年4月の介護保険の改定により地域密着型サービスの方向が示された。それまでは、利用者は全国どこのグループホームでも入所することができたから、評判の良い施設があると聞けば、たとえば東京から群馬へ、あるいは長野へなど越境入所が多数認められた。これに対し、「地域密着型」は、住み慣れた地域での生活の継続を支えることをコンセプトとし、利用対象者は原則として施設のある市区町村の在住者に限られる。

また、地域密着型では、利用者や利用者の家族をはじめ地元住民との話し合いを通じてニーズを探り、提供するサービスを検証し、それに応じたグループホームの設立が求められる。たとえば夜間対応、医療体制の充実など、地域のニーズを取り入れたきめ細かな対応と、地域のなかで問題を解決していく視点が必要となる。その視点を持たずにグループホームを設立することは難しい。   

グループホームに限らず、高齢者の生活を支える社会のあり方として、今後は「地域密着型」がひとつのキーワードになってくると私は考えている。とりわけ、団塊世代が高齢社会の核となる2015年以降は、医療なども含め地域との連携を深めた地域密着型のサービスが今以上に求められることになるだろう。


(2) ターミナルケアの役割
ふたつ目は、「ターミナルケア」の役割である。グループホームは、共同生活が可能な状態で入所するのが基本である。しかし、認知症高齢者の健康状態は予想以上に急速に変化するため、現実問題(ニーズ)として施設のターミナル化が進行している。

2002年12月、厚生労働省が「初期から終末に至るまでの地域に密着した望ましい痴呆性高齢者ケアのあり方に関する研究委員会」(私が委員長を務めた)を発足させたとき、ターミナルケア班でグループホームに関するアンケート調査を行った(2003年2月14日〜3月末実施)。2,579事業所にアンケートを発送し、1,192事業所から回答(回収率46.2%)を得た。

それによれば、開設後3年以上のグループホームの29.9%が看取りを経験している。2〜3年未満、1〜2年未満のグループホームでもそれぞれ17.1%、15.8%に看取りの経験がある。開設後1年未満のグループホームですら6.7%が経験していることが明らかになった。

また、グループホーム側でも、「ケースごとに整えながら前向きに援助していきたい」、「制度上、条件が整えば援助したい」など、66.9%のホームが看取りに対し積極的な姿勢を示した。調査が行われたのは2003年であるから、現在はもっと多くのグループホームで看取りが行われていると推測される。


  [1] 看取りの取り組み経験
開設後 1年未満
ある 29 (6.7%)
ない 395(90.6%)
無回答 12(2.8%)
1〜2年未満
ある 54(15.8%)
ない 275(80.6%)
無回答 12(3.5%)
2〜3年未満
ある 45(17.1%)
ない 208(79.1%)
無回答 10(3.8%)
3年以上
ある 44(29.9%)
ない 103(70.1%)
無回答 0 (0.0%)
無回答
ある 0  (0.0%)
ない   4(80.0%)
無回答 1( 20.0%)

[2] 看取りについての考え
 ケースごとに整えながら前向きに援助していきたい
44.5%
 制度上、条件が整えば援助したい
22.4%
 看取りを行う体制や力量を整えることは困難である
18.5%
 看取りまで行う必要はない
3.9%
 よくわからない
2.7%
 その他
3.5%
 無回答
4.4%


  この調査で、私たちは入所者の退所の条件についても尋ねているのだが、一つの条件として「車椅子の状態になった場合」というホームもあれば、あるいは「医療的な処置が多くなった場合」を条件に定めているところもある。しかし、実際にその状態になったときに「はい、出て行ってください」というふうにできるかどうか…。

グループホームは共同生活の場だ。しかし、入所から2年、3年と経つうちに、自立できていた食事や排泄がおぼつかなくなり、車椅子や寝たきりに移行し、やがて病院に入院するという「現実」に直面したとき、看取りも視野に入れざるをえなくなる。入居者の入院先を訪問したホームのスタッフが、ベッドに縛られて点滴につながれ、ホームにいた頃より認知症の症状が悪化していることに落胆し、できればホームで看取りたいという思いを持つようになったという話はよく聞く。

しかし、そのような成り行きで看取りまで行うことはあっても、すべての入居者に適応するかどうかの結論は出せずにいる。このことについては、実は、多くのグループホームがいまだに悩んでいるのだ。





  認知症高齢者の身体的な変化は普通の高齢者と比べて速い。当初は驚くほどの体力を見せていた人でも徐々に動けなくなり、いずれ末期を迎える。その状態になって他の施設や病院に移れば、環境の変化による混乱はいっそう大きい。グループホームでそのまま看取りができれば、家族にとっても安心できるだろう。
私は、グループホームで看取りをするためにはいくつかの条件があり、それを満たすことができれば看取りは可能であると考えている。その条件とは――

(1) 終末期に必要な医療やケアを受けられること
熱が出たら点滴をする。呼吸困難になれば、必要に応じて在宅酸素で対応する。がんの末期であればモルヒネを使って痛みをコントロールするなど、24時間対応の医療サービスが受けられること。私が院長を務める川崎幸クリニックで、数多くの在宅での看取りを実現できているのは、この24時間対応ができていることによる。


(2) 主治医の理解と協力
2006年4月から介護保険と医療保険が同時に改正され、そのなかで「在宅療養支援診療所」制度ができた。24時間対応の往診と訪問看護、それにケアマネジャーと常に連絡をとっていることが条件で、私のクリニックでももちろんこの体制をつくった。一般の診療所でも、在宅療養支援診療所と連携することによって、診療報酬を得ることができることもあり、経営基盤の確保という観点から導入するところも増えるのではないかと見られる。
いずれにせよ、この看板を掲げているところはターミナルケアに対する経験も理解もあると見ていいだろう。地域の医療ニーズをしっかり受けとめるところと、そうではないところでは、地域住民の評価も違ってくるだろう。


(3) 家族の理解と協力
私は在宅で100名以上のかなりの重度の人を診ている。外来診療にそれほど支障をきたすことなくそれができているのは、終了した点滴の針を抜いたり、床ずれなどのケアをしたり、在宅酸素の管理などは家族に託すなど、家族の理解と協力があるからだ。


(4) ヘルパーのケア領域の拡大
ヘルパーなどの介護職がある程度の医療的ケアができることが条件となってくるだろう。私はそれをかなり以前から、厚労省にターミナルケアの研修と資格制度の導入を働きかけているが、現在のところは実現していない。しかし、これもいずれ具体化すると見ている。





  2006年度の介護報酬改定でグループホームに関して新たな改定があった。そのうち利用者の側から見た変化は、居間などの共用部分を利用したデイサービス(3名を限度とする)と、空き部屋や長期入院している部屋を利用したショートステイ(1ユニットにつき1名を限度として30日以内)のサービスが受けられるようになったことだ。

グループホームのショートステイサービスは、私が厚労省にその必要性を訴え、調査研究を行い、制度化へとつながっていった。この2つの変化が示唆しているように、施設の多機能化は今後ますます進むだろう。小規模多機能サービス居宅介護も、私が委員長を務めた厚生労働省「痴呆性高齢者の暮らしを支援する新たな地域ケアサービスに関する調査研究委員会」がもとになって、2006年4月からスタートした。

1)事業所あたり登録要員は25名以下、2)「通い」が中心、3)1日あたりの定員は15名以下、4)「泊まり」も選択できる、5)ショートステイが別の施設ではなく同じところで利用できる(定員は9名以下)、6)訪問介護及びヘルパー機能、などが特徴である。

ひとり暮らしの高齢者は、「私はなんでもできる」と、なかなか“よそ者”を受け入れてくれない。しかし、その地域に小規模多機能サービスの拠点があり、そこに介護保険を利用しながら通っていた人に、スタッフは「じゃあ私が今度、お宅へ伺いましょう」と言って、買い物をしたり、掃除をしてあげたりがスムーズにできる。あるいは、身近な地域のなかに、グループホームと併設するデイサービスがあって、馴染みの関係のできた認知症高齢者のショートステイをそのグループホームで受けることができれば、混乱も少ないし、介護者も安心できるだろう。

他の事業所の訪問介護や入浴サービスなどと併用できないなどまだ多くの課題は残されているが、「在宅」→「通所」→「ショートステイ」→「グループホーム入居」に至る馴染みの環境の連続性を考慮しながら、個別的なニーズに合わせたケアが提供できるなど、小規模多機能サービス居宅介護は、認知症ケアの可能性を大きく広げるきっかけになると私は見ている。





  団塊世代がすべて65歳を超える2015年以降の高齢者ケアのあるべき方向性についても少し触れておこう。時代を読み解くキーワードとして、私は次の3つを思い浮かべる。

(1) 多様性
高齢者施設ではかつて個室ケアが否定され、後に差別化をはかるためと一斉に個室化が進むなど、これまではひとつの価値観で時代が動いてきた。しかし、団塊世代の高齢者は「みんなと同じ」では満足しない。ニーズの多様化はおそらく極限まで進むだろう。それにどこまで対応できるのか、有料老人ホームはもちろん、グループホームも、この多様化への対応は避けられない課題となるだろう。


(2) 自己選択
その多様なニーズのなかには、場所のニーズも含まれる。自分が住みたい場所を自分で選択する。団塊世代高齢者は、現在の高齢者のように「ここしかないのだから」という我慢や妥協を受け入れないだろう。この自己選択に対応するためのキーワードが、次の地域再生だ。


(3) 地域再生
団塊世代は「個」を中心とした暮らしのスタイルを究極まで追求した世代といっていいだろう。しかし、体が思うように動かなくなったとき、庭付き一戸建ての住まいで快適に暮らし続けることができるだろうか。認知症が進んだとき、セキュリティシステムでガードされたマンション生活に順応し続けることができるだろうか。 振り子の法則が当てはまるなら、振れすぎた振り子は必ず振り戻る。今、再び、グループリビングという住まい方が注目されているのは、その振り戻しが始まっているからだろう。個の砦と化したマンションで、地域住民と共催で祭りが催されることも珍しくない。こうした新しいかたちのコミュニティの再生が今後の大きな課題となると予想される。

しかし、果たして団塊世代は、自らが築き上げてきた「個」のライフスタイルを「共生」のライフスタイルへとシフトすることができるのか…。

いずれにせよ、今後は、多様性を集積させた、多様な人々が暮らせる街づくりが必要であり、そのためのインフラづくりが不可欠だ。小規模多機能サービス居宅介護の制度化は、それへ向けた小さな一歩と私は位置づけている。血縁だけでも地縁だけでもない、福祉を核にすえた新しい地域コミュニティをつくることができるかどうか。ひたすら「個」に向かって内側に価値を求めた時代から、今後はいかに人々が行動や価値観、生活様式を外に向かって広げて行くかが重要な鍵となるのではないだろうか。





  最後に、ひとつ問題提起をしておきたい。

グローバル化がますます進むなか、老後の生活拠点を海外に移す人も少なくない。私が診ていた高齢の患者さんのなかにも何人かいる。日本のグローバル化を牽引してきた団塊の世代にとって海外移住のハードルはさらに低い。現在とは桁違いの数の人々が、大挙して国外へ出ていくことだろう。

生活費や人件費が日本より安い国で老後を豊かに過ごすことも、多様な選択肢のひとつではある。しかし、私は、そこに 経済大国の“驕り”を感じずにはいられない。終末期から看取りまではさまざまなケアが必要となる。お金を払えば、相手国の資材、人材を使っていいというものではない。また、出ていく人がいる一方で、海外からは大量の介護・看護職をめざす労働者が流入してくる。その現実をどこまで制度として認めていくかという問題もある。

日本の高齢社会のあり方は国際社会にも多大な影響を及ぼす。個人の利益だけを考えていては、国としての品格を問われることになりかねない。私は、国際社会という大きな枠組みのなかでも、「共生」が重要なテーマになってくると考えている。(談)








  ※急増する若年期認知症

認知症は高齢者にのみ起こる病気と思われがちだが、65歳以下で認知症を発症するケースも少なくない。40〜50代、なかには20代で発症する人もいる。まだ研究が進んでいないため誤診も多いようだが、日本における若年期認知症患者数は4万人とも10万人ともいわれる。

若年期認知症は、在職中に発症して退職せざるをえなくなるなど、経済的に非常に厳しい状況に追い込まれていくケースが多いが、介護の面でも難しい状況に置かれている。現在の介護保険サービスは、老年期を対象に考えられているため、若年者の通所や入所を受け入れる施設は少なく、仮に受け入れられたとしても介護の内容が若年者には合わないため、結局のところ家庭での介護を余儀なくされる。

ただ、現在は40歳以上なら一部の原因疾患を除き介護保険サービスを受けることができ、家族会などで情報を得たり、老人福祉センターや保健所でケアを受けたりすることも可能になりつつある。当事者やサービス提供者が直面する現実の問題にリアルタイムで追いつく制度はいつの時代も存在しないが、それでも孤立無援だった家族の選択肢は広がり、心の安心を得られるようになったという意味では進歩であろう。

認知症に関しては、今後は高齢期だけでなく若年期についてもケアやケアする家族を支える住環境を考えていかなければならない。



  ※進む認知症治療薬の開発

医学的な研究の進歩により、認知症を完治できる治療法は見つかっていないものの、進行を遅らせたり精神を安定させたりする薬が徐々に開発されつつある。現在、日本で使用されているアルツハイマー病の治療薬は塩酸ドネペジルのみだが、ほかに、妄想や興奮など家族が対処に苦労する症状を改善するための向精神薬もある。  

認知症に対する医療からの取り組みも一部紹介しておこう。


●現在使用されている治療薬
塩酸ドネペジル
商品名アリセプト。日本の製薬メーカーが開発した。症状改善や進行を遅らせる効果がある。日本では1999年から使用が始まった。使用者の30〜40%に頭の働きが冴えてくる効果がみられる。ただし、服用期間は1〜2年、長くても3年程度とされる。

向精神薬
抗精神病薬/幻覚・妄想・興奮の症状改善に用いられる。
脳循環・代謝改善薬/脳の血流や脳細胞の活動性を高めるため、妄想・不安・徘徊・暴力・せん妄などの改善に用いられる。
抗不安薬/穏やかな精神安定作用があり、不安・緊張・イライラ・不眠などに効果がある。
※いずれも、長期間の使用は避けること。症状がおさまっている間に、ケアを工夫し、薬に頼らないようにすることが大切。


●これから登場が予想される新薬
タイプ
コード名
作用の仕組み
進行状況
βアミロイド
(注1)を取り除く
バピネオズマブ アルツハイマー病の原因となるβアミロイドに対する抗体。原因に作用する薬のため、症状の悪化をくい止める可能性があり、次世代の治療薬として期待されている。 日本で第1相の
治験中(注2)
LY2062340 バピネオズマプと同タイプの薬。βアミロイドの蓄積を防いだり、量を減らすことで、脳細胞の死滅を防ぐ効果が期待されている。 日本で第1相の
治験中
脳に起こる炎症を防ぐ ロシグリタゾン 糖尿病薬をアルツハイマー病に応用する。脳の栄養素、プドウ糖の取り込みを助け、脳に起こる炎症を抑える効果が期待される。 日本と米国で
第2相の治験中
アセチルコリンを賦活させる AC-3933 アセチルコリン神経系を賦活するとともに、グルタミン酸神経系を賦活する作用があり、認知症の記憶障害の改善が期待されている。 米国で第2相の
治験中。日本でも
第2相の治験開始
脳細胞を保護する 塩酸メマンチン 神経細胞を保護して壊れるのを防ぐ。塩酸ドネペジルとの併用で、中等度や重度のアルツハイマー病にも希望が持てる。 日本では重度と
軽中度のアルツハイマー病に分けて治験中
アセチルコリンを分解する酵素の働きを止める 臭化水素酸
ガランタミン
塩酸ドネペジルと同様の働きをするだけでなく、アセチルコリンの産生を促す働きもある。 日本では第3相の
治験中
リバスチグミン 塩酸ドネペジルと同程度の、アルツハイマー病に対する進行抑制効果が示されている。日本では現在アセチルコリン抑制の副作用を減らすため、パッチ製剤による治験中。副作用のない薬として期待されている。 日本では貼り薬の
第3相の治験中
注1:βアミロイドとは、脳内にある異常なタンバク貿で、これが沈着することか神紐細胞 の死滅にかかわると考えられている。
注2:治験の流れ:
 第1相=健康な人を対象に薬の安全性や吸収・排泄などを調べる
 第2相=少数の患者を対象に薬の用法や用量などを調べる
 第3相=大量の患者を対象に薬の効果、有害事象などを、効果のない薬(プラシーボ)との対比で調べる。
※上の表は杉山孝博監修『認知症・アルツハイマー病 介護・ケアに役立つ実例集』(杉山孝博監修・主婦の友社)より転載。





 

川崎さいわい幸クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院で内科研修後、地域の第一線痢院で患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務、以来、内科の診療と、在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は釣110名。1981年から、社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加、全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。NPO法人全国認知症グループホーム協会理事。横浜の2つの福祉保健センターの老人精神保健相談医として認知症相談を担当している。
著書は、『21世紀の在宅ケア』(光芒杜)、『新訂ぼけなんかこわくない ぼけの法則』(リヨ ン社)、『ぼけ 受け止め方・支え方』(家の光協会)、『痴呆性老人の地域ケア』(医学書院、 編著)など多数。


社団法人認知症の人と家族の会(本部) 
代表理事 高見国生


   
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