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ケアデザインプラザ

  遺伝子環境都市 「遺伝子が喜ぶ街づくり」
2007年8月9日




  たとえば、多摩川上流の自然環境に恵まれた地域と下流の都市化が進んだ地域とでは、そこに暮らす人々の心身の状態はどのように違うのか。
筑波大学大学院の宗像恒次教授(保健学博士)が行ったちょっと面白い調査結果がある。建設省(現・国土交通省)の外郭団体、(社)ウォーターフロント開発協会の依頼で1995年に実施した調査で、河川の下流域と上流域の映像を被験者に見せ、それに対する心身の反応を調べたもの。
それによると、下流域より上流域の映像を見た被験者群のほうが、平均して筋肉の緊張度が低く(自律神経の副交感神経が興奮してリラックスしている状態)、心の不安度が低いなどの結果が出た。

心身が健康な状態にあるかどうかは、一般的には医学的な疾患があるかどうかで判断される。
これに対し、宗像さんは、人間をエネルギー体としてとらえ、心身を取り巻く社会環境や人間関係までも含めたさまざまなレベルから発信されているエネルギー情報によって健康状態を見る。


エネルギー情報別の嫌悪系と報酬系 (宗像恒次)


  健康なときは、あらゆるレベルのエネルギー情報が報酬(ポジティブ)系の状態にあり、疾病予備軍の状態にあるときは、たとえ症状として表れていなくても、どのレベルのエネルギー情報を取り出しても嫌悪(ネガティブ)系の状態にあると言う。

「たとえば、人間関係がうまくいかず、ピリピリ、トゲトゲした環境に置かれているとき、身体の細胞分子レベルでもネガティブな振動が起きています。また、多細胞生物の人間は細胞同士が協働することで生命を維持していますが、がん細胞のように自己増殖する細胞が異常増殖しているとき、免疫系でも異常が起き、リンパ球数が大きく減少して免疫力が低下しています」

宗像さんが開発した「SATカウンセリング」は、これらのエネルギー情報にアクセスし、嫌悪系情報を報酬系情報に変換することにより、クライアントが抱えている問題の解決を図ろうというもの。
この療法は、一般に考えられているカウンセリングとは異なる。イメージ療法あるいはイメージセラピーに分類される心理療法で、独自の退行催眠法を用いて脳の潜在記憶に働きかけ、嫌悪系情報がつくられた大元の記憶を探り当てて報酬系情報に変換する。

SATカウンセリングによるがん療法の研究を進めるなか、宗像さんが最近とくに着目しているのは細胞分子が発信する振動情報だ。
嫌悪系の振動を、言葉で表すなら「ピリピリ、トゲトゲ」といった感じの小刻みの激しい振動を、「ホンワカ、アッタカ」といった感じのゆったりとした報酬系の振動へと変換すると、怒りや恐怖に支配されていたネガティブな感情や意識までがポジティブなものに変わり、それに伴って健康遺伝子であるがん抑制遺伝子が活性化するのだと言う。
実際、この方法によって、悪性腫瘍が退縮したり、がんの進行が止まったりなど、がんを克服した症例をいくつも生み出している。

モーツアルトの曲や、ソプラノの高く澄んだ声、沖縄の島歌などを聴いて癒される人は多いことと思う。
報酬系の振動とはまさにあのような周波数域であり、私たちの心と身体がそれに共振して、気分系でいうなら「愛」や「安心」といった報酬系の感覚をもたらすらしい。


※がん抑制遺伝子などの健康遺伝子を発現させる報酬系の微振動は、図に示した「愛情信号」や「安心信号」のような振幅が大きくゆったりとした感じの振動。他方、病気の遺伝子を発現させる嫌悪系の振動は、振幅が小さく激しい振動で、がん遺伝子は、なかでも振幅の激しい「恐怖信号」や「怒り信号」に刺激されて動くようだと言う。





  私たちを取り巻く環境がこのような愛や安心を喚起する報酬系のエネルギーに満ちていたら、引きこもりやニート、うつ病、虐待、犯罪など現在多発している問題がこれほど深刻化することはないはず。
ストレス社会と呼ばれる現代社会は、エネルギーの状態でいうなら、嫌悪系の状態にある社会といえる。

工業化社会から情報化社会へと時代は移り、社会の仕組みは、個人が組織に従属するピラミッド型から個人の能力を重視するフラット型へと大きく変わった。
情報化社会は、本来なら個々人が自己実現しやすい社会であるはずなのだが、急激な社会の変化に適応できない人々を大量に生み出すことにもなった。そうした人々に対する救済策をなおざりにしてきたツケが、今、社会問題となって一気に噴出しているのかもしれない。

また、「デジタル化が進む企業や組織ほど人間関係が希薄化する傾向がある」と、宗像さんは指摘する。
ピラミッド型社会では全員参加が必須だった社員旅行や運動会などの行事が次々廃止され、若い層からは会社帰りのいわゆる“ノミニケーション”も敬遠され、「人と一緒にいても孤独」、そう感じている人は少なくない。
さらに、常に成果主義という競争をあおられ、効率主義という時間に追われ、職場にはピリピリ、トゲトゲ信号が行きかう。嫌悪系信号は家庭にまで持ち込まれ、愛情信号をもっとも必要とする生育期の子どもたちにも伝達される。

「お父さんも、お母さんも心に余裕がなくなっているのでしょう。子どもに十分な愛が伝わっていない。専門的には愛着障害といいますが、それが子どもの情緒不安や心身症、不登校などを誘発する要因のひとつとなっています」



エネルギー情報のトランスフォーメーションの法則
(宗像 恒次)


※五感を通して入力される匂い、音声、食感、映像などの情報は、脳の中ではすべて振動の周波数情報に変わる。五感は電流の周波数に変換する装置であると言う。宗像さんによれば、どんなに美男・美女に見える相手でも、脳は周波数としてキャッチしているにすぎないそうだ。エネルギー体としての生命体は、他者や環境と、この周波数によって相互作用する関係にある。もちろん都市環境も周波数情報を持つが、それが報酬系の周波数情報なのか、嫌悪系の周波数情報なのかは、人間だけでなくあらゆる生命体にとって大きな問題となる。






  ところで、このピリピリ、トゲトゲ信号には感応しやすい人と、そうではない人とがいるらしい。
感応しやすいのは、「執着気質」や「不安気質」と呼ばれる気質遺伝子を持つ人たちだ。
どちらもストレス耐性が弱いことから、総称して「ストレス気質」とも呼ばれる。
がんもうつ病もストレス病であるという認識が定着しつつあるが、SATカウンセリングが扱ったがん・うつ病のクライアントは、例外なくこのどちらか、あるいは両方の遺伝子を該当気質として持っていたと言う。

遺伝的気質については、昔から多くの学者がさまざまな分類を試みているが、宗像さんは、大きく6つに分類している。人格気質として「循環気質」「粘着気質」「自閉気質」の3つ、ストレス気質として「執着気質」「不安気質」の2つ、そして「新奇性追求気質」の計6つ。
気質によって抱えやすい問題はそれぞれ異なり、問題を生まないための自己管理の方法も気質によって異なる。

遺伝的気質とは、遺伝子の違いによる情動反応特性の違いを指す。
遺伝子の違いは大脳の神経化学反応の違いであり、それが情動反応の違いとなって表れるのである。
たとえば、生きがいや喜びを得るための情動反応を例にとるなら、神経化学的にいえば、神経伝達物質のひとつである快感物質のドーパミンなどを感受する方法が各気質により異なり、循環気質は他者に認められることで得ようとし(他者報酬依存の遺伝子)、自閉気質は自己満足や他者への慈愛によって得ようとする(自己報酬依存の遺伝子)。
また、粘着気質は報酬による快感を求めるかわりに、自信物質のセロトニンを得ようとするところがある。

各気質のその他の特徴はこちらの「6つの遺伝的気質の特徴」にまとめたとおり。SATカウンセリングでは気質による自己理解をベースにカウンセリングを進めていくが、都市計画や環境アセスメントなどにも応用できそうだ。
たとえば、循環気質には出会いと交流が生まれるコミュニティが、粘着気質には礼節ある人間関係をつくりやすいスポーツの場が、さらに、自閉気質には静かに内省するスペースが、それぞれ重要な意味を持つことがわかる。

自閉気質は日本人の約60%が該当気質として持つと推定され、引きこもりやニートの問題は、循環気質のイニシアチブによってつくられた市場主義的な社会環境に自閉気質がうまく適合できていないことの表れと見ることもできる。

ちなみに、前述のピリピリ、トゲトゲ信号に感応しやすいストレス気質のうち、執着気質は日本人全体の約50%、不安気質は約70%が該当気質として持つとされる。
ところが、自閉気質も含めこれら数ではマジョリティを占める人々の思いや要求が、今の社会には必ずしも反映されていないように感じられる。

たとえば、「森の人」とも比喩される自閉気質には、文字どおり森のような広大な公園が必要だと言う。
ストレス気質には、安心と安全が保障される街づくりが求められる。

「日本人も含めアジア人は不安気質が強い。その一方で、日本人全体の約40%がアメリカ人と同じ新奇性追求気質を持っています。怖がりだけれど、新奇なことに目を輝かせる。日本が世界の先進諸国と肩を並べるまでになったのは、新奇性追求の遺伝子があったからと私は見ています」

安心と安全が保障される街づくりや環境づくりには、この新奇性追求気質の遺伝子の特性である挑戦欲や創造性をうまく生かしていくためにも不可欠だと言う。

「報酬系のエネルギーに満ちた社会は、共感が生まれやすい社会と言えます。共感するとは、互いの思いを想像し合うこと。世間の目を気にして自分を抑えている人に、他者の思いを想像することはできません。未来を拓く挑戦欲や創造性は、人々が共感し合える社会でなければ発揮しにくいのです」

「各気質の長所を生かし、弱点をケアする」というこれまでにない新しいアプローチによる街づくりや環境づくりは、人々に我慢を強いるストレス社会から脱却する大きな力となる可能性も秘めている。






  SATカウンセリングの「SAT」とは、「Structured(=構造化された)」「Association(=ひらめき、連想)」「Technique(=技法)」を略したもの。
基本原理を学べば誰でも簡単にカウンセリングができるその「構造化された」特徴を生かし、疾病予防のための心理社会情報システムの開発を進めている企業がある。
株式会社建設技術研究所(社会資本整備の企画・設計などを手がける建設コンサルタント会社のパイオニア)の金子学さん(国土文化研究所・企画室・主任研究員)の個人的な体験が出発点になったプロジェクトだ。

金子さんは、持病の腎臓病のため人工透析を始めて18年になる。
その間、うつ病にも悩まされ、辿り着いたのがSATカウンセリングだった。
勤めのかたわら筑波大学大学院の社会人コースに入学し、宗像教授のもとでSAT理論を学んだ。

民主主義社会の日本では、社会政策は原則として社会の合意のもとに実施される。
その合意形成の手段としてよく用いられるのがワークショップだ。
だが、ワークショップが果たす役割には限界があり、さまざまな問題点もあると、金子さんは言う。

「費用と時間がかかりすぎ、そのためメンバーが固定化しやすく、マイノリティの意向収集が難しい。日々生きている人々の『思い』という情報を集め、社会政策に生かせるシステムをつくることができれば、マジョリティ形成と同時に、マイノリティを捨てなくてもよい情報の生かし方ができるのではないかと考えたのです」
(金子さん、以下の会話文はすべて同)

遺伝子情報のうち、身体組成のための情報はわずか10%足らず、残りの90%はサバイバル情報であるといわれる。
互いに異質な遺伝子を取り入れることも人類の重要な生き残り策のひとつだ。

「遺伝子のさまざまな知見を見ると、その社会が健全かどうかは、マイノリティをどれだけ保持しているかどうかで計れる。社会が持続していくには、電気や水道などの物質的なインフラストラクチャーの持続だけでなく、社会学でいう社会関係資本(人間関係という資本)の持続が必要です。つまりは健全な心の持続が非常に重要であるということです」

筑波大学大学院において金子さんの師となった宗像教授も、気質遺伝子による自己理解を、他者理解とセットで説く。異質なものを許容し、それを刺激として成長し合うことが、人にも社会にも必要だと言うのだ。






  金子さんの主導によって開発中の心理社会情報システムは、試案によるテスト段階まで進んでいる。
宗像教授のSAT理論はこれにどのように生かされているのか。

SATカウンセリングでは、左脳の思考ではなく、右脳の感情に焦点を当て、その感情の背後に隠された真の要求を引き出していく。
たとえば、ニートの青年に、「何が問題なのか」「本当はどうしたいのか」と聞いても、簡単には問題の解決につながるような答えは出てこない。本人は無自覚ながら感情と要求を抑圧しているからだ。
SATでは、この感情と要求を構造化された問いかけによって、本人の気づきによって発見させるという方法をとる。

「要求開発はソフトウェアの世界でも、今、重要テーマのひとつ。真の要求は何なのか、それさえわかれば解決方法を見つけるのはそれほど難しくない」

入力システムは、SATの自己カウンセリング技法を応用した。
分析エンジンは、SATのストレスマネジメント理論に基づいて開発。
心の動きを座標軸上のベクトルとして把握することができるシステムを構築した。

下の図は、ある女性の4カ月間の心の動きをとらえたもの。ベクトルが長い方向に被験者の関心が強い。
詳しい解析はここでは省くが、金子さんによれば、自立して人生を愉しんでいるように見えるが、実は隠れ依存心があり、その原因には「母と夫」が関係していると言う。
本人に見てもらったところ、「私って、本当はこんなふうに思っているのですね」と、ほっとした様子だったそうだ。
抑圧した感情と要求は、それに気づくだけでもストレス軽減につながる。

(金子学, 2007)
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  このシステムを街づくりや環境づくりに生かすとしたら、どんなことが可能なのだろうか。  

「たとえば街の景観ひとつをとっても、こうだったらいいのにと思いながら、あきらめていることってたくさんありますよね。このシステムで個々の思いを吸い上げていったら、実は多くの人がそう思ってい たということがわかるかもしれません。水面下に隠れていたマジョリティの思いが、政策課題として取り上げられる可能性が広がるわけです」  

また、その地域、地域の人々の思いに沿った都市計画も考えられると言う。

「画一的な開発がなされた都市に足を踏み入れると、何か危うい怖さを感じます。遺伝子が単純化されているからかもしれません。昔ながらの下町にたくましさや安心を感じるのは、長い時間をかけて多様な遺伝子が混じり合い、それぞれに居場所や役割が用意されているからでしょう。たとえば、アッパークラスのマンションひとつつくるのでも、若年層向けに低価格帯の一角を設け、世代ミックスを試みるなど、単純化を回避する方法はいろいろ考えられます。そこを故郷とする家系が未来永劫つながっていくような、そういう発想と仕掛けづくりが大切だと思います」

脳・心・体・社会を統合する新しいマーケティング「心脳マーケティング」を提唱するハーバード・ビジネススクールのジェラルド・ザルトマン教授は、「顧客の気持ちが読めない」という企業経営者の悩みに対し、「従来のスタイルのマーケティング手法では当たり前の結果しか出てこない。顧客の心の奥底にあって、言葉で表現することが難しい『暗黙知』や『無意識』に焦点を当てる必要がある」と答えている。

これまでのような数としてひとくくりにされるデータ情報ではなく、個々の感情や思いを背景に持つ物語としての情報が、持続可能な社会を構築するうえでのカギとなるようだ。


<参考資料>
遺伝的気質早分かり表(宗像恒次、田中京子)
6つの遺伝的気質の特徴(宗像恒次、田中京子)



<参考文献>
宗像恒次、田中京子、小林由実   
『SAT気質コーチングによる人間関係のコラボレーション』    
ヘルスカウンセリング学会年報第13号,2007.

宗像恒次 『SAT療法』(金子書房,2007)
宗像恒次 『健康遺伝子が目覚めるがんのSAT療法』(春秋社,2007)








  宗像恒次(むなかた・つねつぐ)
1948年生まれ。東京大学大学院卒。保健学博士(東京大学大学院医学系研究科)。現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科ヘルスカウンセリング学教授。ヘルスカウンセリング学会会長。日本精神保健社会学会会長、ハーバード大学医学部医療文化センター国際委員。専門は健康行動科学、ヘルスカウンセリング学、精神保健学。阪神大震災、在ペルー日本大使公邸人質事件の対策などの被害者のメンタルヘルスケアを行う。著書には『ストレス解消学』(小学館ライブラリー)、『がん、うつ病から家族を救う愛の療法』(主婦と生活社)、『SAT療法』(金子書房)他多数。

金子学(かねこ・まなぶ)
1964年生まれ。筑波大学卒。(株)建設技術研究所国土文化研究所・主任研究員。専門は緑地計画、景観デザイン、精神保健学。都市計画、地域活性化計画、社会合意形成などの各種業務に従事。現在は「工学と人文科学・医療科学の連携研究」を立ち上げ、心理の社会情報化やPCによるセラピーシステム等の開発についての研究を行っている。



 

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■ 2007年7月3日 取材 ■

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